モバイルでのインターネットについては、僕が話した人のほとんどは大いにこれを歓迎している。日本政府は2006年、携帯電話でインターネットをする人のほうがコンピュータでインターネットをする人よりも多いと、誇らしげに発表した。オンラインサービスはこぞって「モバイル戦略」を語り、ベンチャー・キャピタルは最新のモバイル系新興企業に群がっている。

モバイルや、モバイル用の新しい優れたアプリケーションやデバイス自体、何の問題があるとも思わない。けれどここで忘れてならないことは、実際に機能しているモバイルネットワークのほとんどは、規制されたもしくは非公開の技術を多く用いる少数の携帯電話会社が運営しているインフラがその基盤になっているという事実だ。

新興企業主導の革新に勢いがあるのは、インターネットが本質的にオープンな場だからだ。誰も許可なしで参加できて、皆が全ての階層において誰とも競争できる場所なのだ。(一部の半独占例を除けば)この公開かつ自由な競争というDNAがあるからこそ、Googleのような新興企業が現れて下克上をなし遂げたりできるんだ。もしインターネットがなければ、電話会社らは間違いなく、自分たちで「オンラインディレクトリ」を設計して運用することが最も効率的だと気づいていたはずだ。

市場内で規模を拡大し、独占的な位置づけにまで成長したとしてGoogleを批判することは可能だが、Googleの収益の相当部分は新興企業に、あるいはMozillaのような非営利組織にも資金として還元されている。Googleは多くの会社を買収したり、主にオープン型のプラットホームを作っている販売会社から備品を購入したりしている。

一方、携帯電話会社の収益の多くは、肥大化した部内の研究開発や、電話会社用の部品を生産する少数の販売会社に対する部品の購入費用として費やされている。

日本では2006年に、コンテンツ(着信音、着うた、ゲーム)系の22億ドル、商業の47億ドルに対し、モバイル広告の市場は僅か3億3千万ドルであった。
(http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/eng/WP2007/2007-index.html)
誰もがモバイル広告を試し、モバイルで広告は増えているものの、モバイルデバイスに費やされた資金の大部分は、少数の提供元からの、さほど革新的でもない少数の製品への支払いや回収に使われている。

僕は別に電話会社を非難しているわけではない。電話会社はほとんどの国で、入札によって大変な契約額で帯域を獲得し、その重荷を背負った状態で事業を運営している。また、ほとんどの国で厳しい規制を受けている。通常、政府によって認可された少数の企業であることが規制を受けやすく、それゆえにコストが拡大し、競争が減弱するという結果を招いている。

例えば、日本政府の中には「若者を有害コンテンツから守る」ためにコンテンツのフィルタリングを実施しようという動きがある。インターネットのほうでは、ネット上のコンテンツを規制するようなこの種のフィルタリングシステムと戦おうとしている。その一方でモバイルのインターネットについては、政府は素早く携帯電話会社に未成年者用のコンテンツフィルター適用を強要し、すでに日本ではこれが適用されている。モバイルのインターネットは、悪い奴らや目障りな新興企業、阻害要因に抗して、政府が規制や操作により「安全」にするのが遥かに容易なんだ。

人々は『モバイルがオープンになりつつある』一例として、ハッキングされたiPhoneの例を挙げたがる。僕はそれ自体は賞賛するし、自作のアプリケーションをiPhoneで走らせることができるようになったことは素晴らしいと思う。けれども携帯電話会社の選択においてはどうだろう。
『おめでとう、AT&Tの代わりにVodaphoneかSprintを選べるようになったぞ。』
これではまだ、『携帯電話会社の部分ではクローズド』という根本的問題が解決されているとはいえない。

短期的には、e-mobileのような仮想移動体サービス事業者が価格低下に貢献するだろうけど、それらにしても競争にオープンとはいえない基盤の上に作られたものであるため、価格の低下には限界がある。長期的に必要なのはオープンな帯域構造と、3G以外の選択肢だ。

日本ではMixiなどのサービスが、ウェブ経由の使用が減少傾向にある一方でモバイル経由での使用が増加傾向にありウェブよりもモバイルからサービスを利用するユーザーが増えつつある、と発表している。僕が思うには、モバイルは(企業側にとって)ウェブほどには儲けがないんじゃないだろうか。モバイルへの移行を急ぎすぎてしまうと、インターネットで慣れ親しんでいるDNAとは異なる基盤を土俵にすることになってしまう。さらに重要なこととして、その場合、儲かったお金は、それを新興企業にではなく巨大な販売会社系の食物連鎖の中に環流させてしまう人々の懐に入ってしまうことになる。

ひとつの考えだけど、モバイル分野で先見の明があるVodaphoneやNokiaのような会社が、モバイル上のオープンな革新に投資するための基金を設立したらいいかもしれない。モバイル生態系が健全である場合には少なくともその生態系に参加している大手企業にとっては、インターネットが電話会社の市場を全体として拡大させたように、長期的に見てより有利である、という主張は十分になしうるものだ。まさに石油大国が代替エネルギーに投資しているのを連想してしまう。

このような動き(民間企業による基金設立)が実現するならそれは素晴らしいことだし、喜んでお手伝いしたいところだ。 ;-)