米MIT大学メディアラボ元所長の伊藤穰一が、メディア美学者の武邑光裕氏とニッポンのDX推進について徹底討論。 「現在DX推進で必要とされるのは技術革新だけじゃなく、社会や文化とDXがどう関係していくかである。」という、ちょっと変わった視点からDX推進に関する白熱した議論が繰り広げられました。 また、ドイツから帰国したばかりの武邑氏からは、既にデジタル変革と文化の融合が進んでいるヨーロッパでの実態が明らかに。意外な事例が次々と飛び出しました。 ハッカー集団から政治家が誕生!?敵対していたスタートアップと政府が蜜月の仲に!? 武邑氏による解説は必聴です。 さらに、一部のメンバーを会して行われた「変革会」の模様をダイジェストでお届けします。 「変革会」メンバーをリスナーの皆様からも募集する予定です。奮って、ご参加ください。
【JOI ITO - 変革への道- Opinion Box】今回から、リスナーの皆様から私のPodcastを聞いたご意見を募集し始めました。 忌憚のないご意見をお聞かせください。
【編集ノート】 Joiさんからのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちらにまとめてあります。 今回から使用した音楽に関するエピソード(なんと坂本龍一さんによるオリジナル!)も記載しています。
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今週のポッドキャスト配信について
Podcast Transcript
伊藤穰一: みなさんこんにちは、伊藤穰一です。私はデジタルガレージの共同創業者と取締役といろんな新しい企画を考えているけれども比較的にまだ暇な伊藤です。.
伊藤穰一: この2年間、僕の人生でたぶん一番暇だった2年から、だんだん昔みたいに忙しくなってきていて。本当に東京に戻ってきて、爆発的に面白い人とおいしいご飯が食べれて、何かワクワクしてます。んでそのワクワクどんどん増えていく私の道と、それと今日のゲストの武邑先生との話を今日紹介したいと思います。
伊藤穰一: 東京に戻ってきて、ヨーロッパのフレッシュな情報をいっぱい持っている武邑先生と、今のヨーロッパの政治それと僕が大好きなドイツのカオスコンピュータクラブとかそれともっと武邑先生ならばのパラダイムシフトとか、僕が大好きな複雑系自己適用型システムの話もぜひしていきたいと思います。
伊藤穰一: 日本でデジタルトランスフォーメーションとかこのNFTとかまた何かすごく大きなシフトが起きようとしている感じがして。なんか今、また技術だけじゃなくて、文化とクリエイティブと社会的なところでも、もっとちょっと違うレイヤーでやらなきゃいけないような感じしません?
武邑光裕: そうですね。結局、テクノロジーをどう考えるかということの前に、社会のパラダイムをどう考えるかという視点がどうしても必要で。そこを見ないと結局、テクノロジーをコントロールできなくなるというか。人間の側にヒューマンスケールになかなか持っていけなくなってしまうというのは、大きな課題だと思うんです。だから日本はどっちかというと、クリエイティビティとテクノロジーというものが融合した世界だというのは頭ではわかってるんだけど、なかなか実現するのは難しい時代をずっと続けてきたっていうか。そこは非常に今、日本ではものすごく重要なポイントだなと思いますよね。
伊藤穰一: リサーチャーでDonella Meadowsっていう人がいて彼女はシステムのリサーチをしてたんですけれども。システムを変えるときって技術を変えたりルールを書いたりいろんなこと変えることができるんだけれども。そもそものゴールを変えるのがすごく重要で。そのゴールはどこからくるかっていうと、パラダイムからくるんだよね。で、それをちょっと社会に当てはめるとパラダイムが経済学と民主主義だと。とにかく自分がなるべくお金を稼いで他の人達を勝ち抜いていくっていうのがパラダイムだとすると、ゴールはお金持ちになるのがゴールだったりおっきい会社をつくるのがゴールだったりするんだと思うんですけども。そうすると技術を変えたりルールを変えてもゴールを変えない限り、あんまり世の中変わらないんですよね。で、僕はよく例えで好きなのが、モノポリーのゲームってもともとLandlord's Gameっていうゲームから来ていてLandlord's Gameというのはキャピタリズムがどんだけ社会にとって危ないかっていうのを、子どもたちに教えるためのゲームだったんだけれども。実はみんなBankruptになって貧しくなるよっていうのを説明するゲームで。ただパーカーブラザースが買ったときには、ゴールが自分が皆をつぶして自分だけ生き残るのがゴールだっていって。ルールをほとんど変えてないんですよね。ゴールだけ変えたら違うゲームになっちゃうっていう感じで。そういう意味で言うといろんなデジタルとか色んなものを変えるのはいいんだけれども、ゴールがやっぱり今までと同じだとあんまり社会変わんないんじゃないかなっていうのが心配ですよね。
武邑光裕: もっと大きなperspectiveっていうか、そのパラダイムを見ておく必要があると思うんですよね。中国のSF作家での隆慈欣という人がThree Body ProblemというSF小説書いて。あれが比喩的に言ったのは東洋と西洋とデジタルだと思うんですよ。3体っていうのは。スリーボディーっていうのは。スリーボディーというよりThree Sphereと言った方がいいかもしれない。もともと西洋と東洋といっても、今やもう特定の地域に限定されるものではなくて。日本というのは、どっちかというと西洋でもあり独自の文明でもあるっていう考え方もあるんですけれども。しかしその3つはもともと、基本的な文化的な技術のレベルで対話できないんですよ。Westはアルファベットだし。Eastはピクトグラムだったり。で、Digitalはバイナリー。だからその3つをどうやって、ある意味で対話させるかというのは天体物理学で3 Body Problemっていうのはその3つは絶対調和できないっていう考え方なんだけど。それをなんとか対話の方向に持っていくということが、大きな世界のパラダイムだと思うんですよね。そこにDigitalというのはある意味で、非常に重要な役割を果たすっていうか。あるいは東洋と西洋が本当にある意味で融合できるかどうかということ。2ボディーだと対話できるんだけど、3ボディーだと対話できないっていうか。そういう考え方の一つを理解した上でテクノロジーと人間の関わりというものを考えていける。逆にそういう時代が来てるんじゃないかなと思うんですよね。
伊藤穰一: そういう意味で言うと、またちょっと違うレイヤーでいうと、こんな環境のレイヤーもそうだし、今の社会のレイヤーなんだけどもこれも。ちょっと科学的にいうと、自己適応型複雑系システムで、勝手にこう変わっていっちゃうんで。だから直すって言っても「じゃあ、これと、これと、こうすると、こうなる」っていう直し方ができなくて、文化を変えたりアーキテクチャーを変えたり、いじってみたらどうなるかを見て学びながらいじっていくとか。あとは多様性でもって、みんながいろんなことをやっていくことによって、正しい方向に進化していくとか。進化論的なシステムでのいじり方だと思うんですよね。環境問題にしても、今の経済にしても。で結構、大量生産とオプティマイゼーションでやっぱり発展の時代はやってきたから、何か機械的にわかりやすく整理してきっちりやれば直るっていう鉄道を作るような感覚でデザインできるっていうふうにみんなまだやっぱり気持ちや文化になってるんだけども。それはもうそういう政策じゃ無理で。アジャイルで複雑で、アダプトしながら多様な方向でやんなきゃいけない時代なので。そういう意味でいうと、日本なんかはややきっちり整理して、みんなで揃えてやるとかっていうのってやっぱりそういうメカニカルな時代で、自己適応型複雑系の時代じゃないんですよね。スリーボディーはコントロールできるものをいじるための美学だと思うんですよね。で、それをどうやってトランスフォームするかっていうのが重要で、それがトランスフォームしないとコントロールできるシステムを作りたいっていうのがあって。今、それでたぶんすごい摩擦が起きているような気がするんですよね。
武邑光裕: そうですね。自己適用型の複雑系っていうのは、もう僕がベルリンに行って隣のオーストリアの経済学のハイエクっていうのとミーゼズっていう人が提唱した概念だと思うんですけれども、本当にベルリンという都市を見てると、自己適応型の自己組織化していく複雑系なんですよね。ただ誰かが行政のガバナンスが「こうしろ」とか「ああしろ」とか「ああやろう」と言ったことはことごとく失敗して。そのボトムアップで知らないうちに何かベルギーがスタートアップの町になってたみたいなそういう自己組織化していくエネルギーとか力というものはやっぱりすごく感じますしね。
伊藤穰一: そうですよね。
武邑光裕: 経済っていう言葉の代わりに、ハイエクはカタラクシーという言葉を作ったんです。カタラクシーっていうのは、何かを交換する科学、交換の科学というか。なんていうかな。敵を共に変えてしまうとかそういう考え方が、考え方というか、その自己組織化自己適応型のちょっと複雑系の中にその考え方が、考え方っていうか、そのアプローチが埋め込まれていて。自然にそういった方向に向かっていくというか。だから敵同士だった例えば、行政(ガバナンス)とスタートアップとか個人というのはヨーロッパではもう20年ぐらい前からお互いが必要だということをみんなわかり始めて。決して仲違いするだけではない。敵対視することはよくない。ある意味でお互いの旅にとって良くないこと。
武邑光裕: 対立してばっかりいると、あんまりいい結果は出てこないっていうことをなんとなくベルリンの人なんかはよくわかり始めてきていて。ヨーロッパ全体ではどっちかというとあんまり昔のように大企業・行政とスタートアップや個人がずっと対立したまんまという考え方はもうない。それも何かひとつのなんというかな。時代のような気もしますよね。
伊藤穰一: 僕もちょうど先週、クロアチアのPirate(海賊)系の友達、ハッカー系の友達と話してたら、知らないうちに何か彼がグリーンパーティーの立ち上げに関係して、なんかもう選挙にハマってガバナンスの方に回ってきていて。かなり反体制的なクリエイティブコモンズの時代にクロアチアって友達となったチームなんですけど。なんか下手すると代議士になっちゃいそうで。ただ心はあんまり変わってないんだよね。でそういうパイレートパーティーとかもね。ドイツとかにもあったり。なんか本当に何かアンダーグラウンドなサブカルチャーの人達が国会にいるっていう。すごく面白いですよね。ヨーロッパって。
武邑光裕: Chaos Computer Clubっていうベルリンのハッカーの大きな組織があるんですけど。そこはJoiなんかをよく知ってると思うんですけど。そこ出身の議員とかがいますからね。
伊藤穰一: そうなんですよね。僕もカオスコンピュータクラブよく行って。一時期Chaos Computer Clubアンバサダーかなやってたことあるんですけど。だからそういう意味で言うと面白いですね。日本だとあんまり政治には、そういうサブカルチャー系の人って出てきてないですよね。
武邑光裕: いないですね。中にはいるんだろうと思うんだけど、やっぱりすごくマイノリティで。そういう文化というものと政治側が分断されてしまっていて。
伊藤穰一: そうなんですか。そういう意味で言うとちょっと右寄りのポピュリズムからそっちにシフトしてるんですか。これはヨーロッパ絶対?それともドイツ?
武邑光裕: 少なくともドイツですね。フランスは来年ポピュリズムの右翼の大統領が生まれるかもしれないし。もう、かなり民主主義が崩壊しつつある国もいくつもEUの中にあって。ドイツがリーダーシップをとってEU全体をまとめていく以外ないんじゃないかという感じですね。
武邑光裕: ベルリンというのは、もう1989年11月でnation stateというものが崩壊してベルリンっていうのは都市国家になったんですよね。City nationというか。今、起ころうとしてるのが本当に90年代にサイバーリバタリアンがユートピアとして考えていたInternet Nationが生まれる可能性が出てきているっていうか。そういう時代の中で、本当にそれが可能なのかどうか。本当に今の僕らは政治とかガバナンスにとどまるのか?それともインターネットの国家を選ぶのか。ただ僕らは現実に生きていかなきゃいけないし。肉体もあって。どこかに住む必要があるわけで。それをノマドのように3カ月ごといろいろ移動して生きていける人もいれば、そうはいかない人もいる。なかなか、これから、すごい選択肢の時代ですよね。
伊藤穰一: 本当に武邑先生とこんなに深く話すのも、たぶん10年ぶり以上なので。いや、やっぱりすごいですね。まあ、ついていけないところも多分皆さんもあると思うんですけども。こういう武邑先生と一緒に重要な世の中のコンセプトと、すごいマニアックな話を一緒に混ぜていって、この視点から見るとこんなデジタル改革デジタル変革がわかりやすく語れるんじゃないかなっていうのを、やっていきたいと思いますので、今日の話も受けて官僚の人ですとか、学会の人たちにいろいろまたワクワクするような話ができるといいなと思って。ちょっとこれからじっくり紹介していきたいと思います。
伊藤穰一: あと今日、実は一部のメンバーたちにパイロットでZoomで変革会っていうのを開いて集まっていただきました。
伊藤穰一: 別に短期的に何かオーガナイズしてみんなひっくり返そっていうつもりじゃなくて、なんとなく結構いろんな会話していろんな人と話してるうちになんとなく面白いアイデアが浮かんできてそして何かこうネットワークが広がっていくといいな…
伊藤穰一: ポッドキャストって日本って今どういう位置づけになってんの?結構アメリカはすごいメジャーになっちゃってるけど日本ってこれからなんだよね?
石部: まだこれからで。今はネットに詳しい方というかスタートアップとかそういうところから今広がっていってるようなイメージがあって…
伊藤穰一: ヒッピーカルチャーがアップルを作って、Appleが世界中の一番大きい会社になったり。結構シリコンバレーとヒッピーと音楽とアートとつながったことによって今のシリコンバレーがあってキャパがあるわけで。同じように今やっぱりちょっとサブカルっぽいところもすごく今後の日本の財界とかにも影響があるんで…
伊藤穰一: まああれも本当にクラブイベントなど企画よくやった武邑先生と僕も、だんだん懐かしい気分でどうやってこの新しいコロナの時代Zoomの時代で、クラブで起きたようなセレンディピティとワクワク感を味わえる場が作れるのかっていうのを、いろいろディスカッションしてるんで。何か一時期ズーム飲み会が流行ったらしいんですけど、なんか最近はやってないみたいなので、この今の環境とこの今の時代で、レギュラーの集まりで何が一番面白いかなっていう話は出てきて。だんだんちょっと何か光が見えてきたので、それもいずれか皆さんに紹介したいと思います。
伊藤穰一: それでは今日はこの辺で。また次回のJoi Ito’s Podcast - 変革への道- をお楽しみに。