2008年11月 Archives

Mimi in her ergopod

今日は妹のMimi(および danah boyd など、同僚の皆さん)をとても誇らしく思っている。MacArthur Foundation(マッカーサー基金)の資金援助により彼女が実施した研究が本日発表され、メディアで幅広く報じられている。若者世代がデジタル技術やメディアをどのように使っているのかを3年間かけて研究したものだ。しばしば見当違いだったりエピソードの寄せ集めになってしまいそうな、子供たちがどういうことをしていてまた何の役に立っているのかというテーマについて、確固たる知見を示したものだ。

The New York Times


ティーンのネット社交は悪いものではない

心配されている親御さんに朗報です。マッカーサー基金による新しい研究報告によると、ティーン世代の子供たちがネット上での社交に長時間を費やしていることは、悪いことではないようです。

「Living and Learning With New Media(新しいメディアを使った生きかたと学びかた)」と題されたこの報告の主任研究者である伊藤瑞子は、「MySpace にせよインスタントメッセンジャーにせよ、子供たちが新しいメディアを使った交流に多くの時間を浪費しているように見えるかもしれません。しかし彼らはそれらの場に参加することで、現在の世界で成功を収めるのに必要な技術的スキルとリテラシーを身につけていきます。他人との付き合いかた、公的なアイデンティティーの管理のしかた、ホームページの作りかたを学ぶのです。」

報告はプロジェクトのウェブサイトからダウンロードできる。そしてもちろん、クリエイティブ・コモンズのライセンス下にある。 ;-)

Takuma Hatano and Joi
波多野大使と共に


JHigher Colleges of Technology主催のElectronic Media Conference(プログラムはこちらから)に出席・講話するためにアブダビとドバイに行ってきた。参加の要請は波多野大使および日本大使館からいただいたものだった。ご紹介ありがとうございます、大使!

ホスト役はHigher Colleges of Technologyの長であり、高等教育・科学研究担当大臣でもある、とても人望の厚いシークであるSheikh Nahayanが務めた。彼は門戸開放主義なので、待つことさえいとわなければ誰でも事前の約束なしに彼の自宅を訪ねて本人に面会できるため、「人民のシーク」と呼ばれている。このやりかたはどこかEdward Hallが提唱した「P-Time」を連想させられる。

会議はとても楽しく、講話者はいずれも素晴らしかった。

会議の全般的なテーマは、ネットが出版業界およびジャーナリズムに与えている影響についてだった。アラブ系のメディア、およびUAEにおけるメディアについても話し合った。

ジャーナリズムにおけるアマチュアの役割についてはいくつかの意見が出ていたけれど、発言者の来歴が非常に多様であったわりには、同意し合う点のほうが圧倒的に多かった。多岐に亘る、従来型のジャーナリストや出版関係者が参加していた。このような多種多様なグループを交えた討論としては、僕が最近経験した中で最も建設的なもので、その焦点はジャーナリズムの将来に向けた様々なビジネスモデルの仕組みや評価指標についてであった。素晴らしかった一例を挙げると、Vidar Meisingseth氏が、ノルウェーのニュースサイト「VG News Portal」に関するプレゼンを行った。このサイトは収益の大半がオンライン由来であり、ニュースのかなりの部分をアマチュア写真家や、ショートメール・電話・Eメールでの情報提供から得ているそうだ。

Bloomsburyの編集長であるAlexandra Pringle氏が出版業界について話しをして、Frances Pinter氏が運営するBloomsbury Academic(クリエイティブ・コモンズのライセンス下の書物をダウンロード提供することになっていて、印刷されたバージョンの希望者はオン・デマンドの印刷版が注文可能になる。来年5月にLessigの「Remix」を出版予定)にも言及した。

プログラムには載っていなかったものの、検閲についても話し合った。招聘講話者の多くが言論の自由の大切さについて話していた。聴衆内のとある学生さんから、同じく出席している友人たちと話し合った結果の仲間内の意見、という非常に興味深いコメントがあった。UAEに来てオンラインの検閲ぶりを批判する外国人が多いものの、個人的には問題ないと思っているそうだ。市民の多くが統治者側を信頼していて、特定のサイトをアクセス不能にするのは必ずしも悪いこととは限らない、と。アブダビの市民は全人口の20%ほどにしかならないので、残りの国民がどのように感じているのかが興味深い。

UAEに関する「Access Denied」の報告によると、「アラブ首長国連邦(UAE)の政府はポルノグラフィーを含んでいたり、アルコールや薬物の摂取、ゲイやレズビアン問題、出会い系やギャンブルに関連するウェブサイトを全面的にフィルタリングしている。ウェブベースのアプリケーションや宗教的・政治的なサイトもフィルタリングされているが、こちらは相対的にその度合いは軽い。加えて、表現や行動の自由が法的に規制されているため、オンラインでの政治的な対話や反対意見の表現が制限されている。」とのことだ。ただし、リンク先にある表を見た印象では、規制の対象は主に、社会的な要素を含むもののようだ。

ヨルダンとUAEにはそんなに多く行ったことがあるわけでもないんだけれど、社会的・宗教的な慣行については若者たちの間にかなり多様な意見があるという印象を受けている。Samr Husain Al Marzouqi氏はMTVで、格好良く演出する努力をしながらも、どちらかというと保守的な信条に固執する子供たちも含め、様々な考え方に敬意を払った内容にしようとしたと説明していた。

僕自身はというと、アマチュア対プロ、クリエイティブ・コモンズ、ブログ、マイクロブロギング、モバイルおよび政治的表現の手段としてビデオリミックスを使用可能にする必要性など、複数の話題について話した。日本共産党がニコニコ動画を使って成功を収めていることについても少し話した。(これについては夏野剛氏がDG New Context Conferenceで話している。また、Global VoicesにもChris Salzberg氏によるいい記事がある。)

旅行中に撮った写真をいくつかFlickrに投稿した。

Susan Crawford

Andrew McLaughlin, Kevin Werbach and Yochai Benkler

素晴らしい人選だよ、これは。僕の大好きな人物で、この仕事に最適任だと確信できる人物2人が、オバマ氏によりFCC(Federal Communications Commission、連邦通信委員会)の政権移行作業チームの舵取り役に起用されたんだ。SusanKevin、おめでとう! 紆余曲折はあれども、インターネットを救うことは可能なんじゃないかと思えてくるよ。

新政権がこのようなチームを組み続けてくれれば、真の意味で良い変化を期待できるんじゃないかな。


TV Week より

November 14, 2008 12:39 PM
2008年11月14日午後12:39
オバマ氏がFCCの政権移行作業チームを召集

By Ira Teinowitz

次期米大統領バラック・オバマ氏は本日、連邦通信委員会(FCC、Federal Communications Commission)の問題点に取り組み、人選を担当する政権移行作業チームの舵取り役として学会から、2名の人材を任命した。

チームの舵取りに任命されたのは、通信法を専門とするミシガン大学法学部の教授Susan Crawford(スーザン・クロフォード)氏と、ウォートン・スクールの准教授であり、クリントン政権時代のFCCで新技術政策に関する相談役を務めたKen Werbach(ケビン・ワーバック)氏の両名である。

クロフォード氏は通信法を専門とするワシントンの弁護士事務所の元パートナーであり、最近までインターネットのドメイン名登録を管理する組織であるICANNの理事を務めていた。ワーバック氏は技術系ニュースレターである「Release 1.0」の編集に関わった経験をもち、技術系の分析・コンサルティング企業である「Supernova Group」の創設者でもある。

オバマ氏の政権移行作業チームには何名かの元FCC役員が含まれているものの、次期大統領のチームが採用した利害衝突防止ルールにより、その多くはFCCの扱う問題に直接関われないかもしれない。

オバマ次期大統領陣営は本日、クロフォード、ワーバック両氏はNational Cable and Telecommunicationsの元会長であるトム・ウィーラー(Tom Wheeler)氏が長を務める「Science, Tech, Space and Arts Team」(科学、技術、宇宙および芸術チーム)に所属すると発表した。

ちなみに、正しくは「Ken(ケン)」じゃなくて「Kevin(ケビン)」のはずなんだけどね。うーむ。

via Dewayne via IP


20081104_Chicago_IL_ElectionNight1032, Barack Obama | CC BY-NC-SA

クリエイティブ・コモンズのブログより

次期米大統領バラック・オバマ氏の舞台裏写真がCCライセンス下でFlickrに

次期米大統領バラック・オバマ氏とそのスタッフは2007年序盤以降、彼名義のFlickrフォトストリームに写真を投稿し続けている。最も新しく投稿されたセットは選挙当日の夜の模様をとらえたもので、アメリカの歴史に残る瞬間の舞台裏を垣間見ることができる。

写真は全てクリエイティブ・コモンズのBY-NC-SAライセンス下で公開されており、そのため簡単に共有・転用可能となっている。こちらにも選挙戦の様子を写した写真がある。

アメリカよ、おめでとう! 世界中の誰もがそうだろうけど、心底良かった。涙が出そうなくらいだよ。実際、何回か泣いたりもしてるけどね。ここのところ旅行続きだったんだけど、どこへ行ってもオバマ氏の当選を望む声が多かったのが印象的だった。

経済危機の余波として、世界全域でアメリカに対する疑念が広まってしまったように思える。アメリカが「超々大国」から「超大国」へと格下げされるのは避けられないことだろう。しかし、世界がそういった、より分権的な世界に適応する中で、我々は転換点に立たされていたわけだ。非常に反アメリカ的な方向に進むか、もしくはより合理的で多様性に富む世界の「一員」になれるように尽力していくか。

最近起こった経済危機から回復しつつある中、大統領選はアメリカに対する世界の尊敬を保つための鍵となっていた気がする。アメリカは今後数ヶ月間から数年間、やらなければならないことが非常に多くなるけれど、オバマ氏が当選したことで、まっさらな状態からの再出発を許され、多くの人々がアメリカの努力を見守ってくれるのではないだろうか。これは全世界に対し、アメリカがどれだけ理性的で、謙虚で、多様性を尊び、変化していく覚悟があるかを見せられる、素晴らしい機会だと僕は考えている。米国が再び尊敬される国家になれるようにみんなで尽力して、米国の核となっている価値観には学ぶべきものがあるのだと、世界に納得させようじゃないか。

本日付のワシントン・ポスト紙で僕の発言が紹介されていた。記事そのものはメンバー登録の壁の向こう側にあるみたいだけど、 WashingtonPost.com で 「Joichi Ito」 を検索してもらえれば記事が見つかるはずだ。