2010年5月 Archives

Twitter社は「Promoted Tweets」のアナウンスを行い、同時にサードパーティが タイムラインに挿入する広告やスパムについて、APIの利用規約にあるガイドラインを更新した。

日本では一部で、今回の発表に関する誤った解釈に基づいた報道があり、 Twitterが広告自体を禁止するかのような誤解が広まっているようだ。新たなポ リシーによって、デジタルガレージが関わるTwitter関連の事業が悪影響を受け ると断定する声すら聞かれる。

今回のAPI利用規約の変更では、Twitter社は引き続きTwitterサービスに関連す る広告について認めており、またイノベーションを推奨している。ポイントと なっているのは、広告によってユーザーの経験に戸惑いを与えたり、齟齬をきた すといったことがあるべきではないという主張だ。

Twitter日本語版やデジタルガレージが関連するすべてのTwitter関連広告は、 Twitter社がアナウンスしたガイドラインに準拠している。デジタルガレージは Twitter社と密接に連携し、ユーザーの経験に悪影響を与えずに、企業が自分た ちのファンとコミュニケーションするための革新的で新しいアイデアを開発して いる。

またデジタルガレージは、サービスの運用面でも幅広く米国のチームと連携して いるほか、共同創業者のBiz Stoneは、デジタルガレージがTwitterによる革新を 続けると共にソーシャルメディア全般について知見を広げることを助けるため に、デジタルガレージのアドバイザリーボードに加わったばかりだ。

日本という市場は、Twitterに関する新しいサービスやアイデア、広告手法を試 す場所としてとても面白い。Twitterによる今回の発表は、Twitter社が(そして デジタルガレージが)、ユーザーにとっての価値を最も重視していることの証で あり、こうした価値を重視しない一部の広告主やサービス事業者によって、サー ビスが使い勝手の良くないものになることを防ぐことを意図している。

免責条項:このブログ記事について、僕はTwitterの経営陣とは話をしていな い。Twitter社のリリースを解釈して書いている。彼らと話をした結果、Twitter 社としてこの記事に付け加えることがあった場合は、更新する。一部の日本のメ ジャーなメディアに、あまりに稚拙な憶測記事が載っていたので、ともかくそれ を正したいという気持ちから、この記事を書いた。

Serkan Totoが、僕たちの「Open Network Labs」 (ONL)について、とても詳しい 記事を書いてくれた。詳細についてはこちらを読んで欲しいが、簡単に言うと デジタルガレージが、ネットプライスドットコム、カカクコムと一緒に、ベン チャーの短期育成プログラムを先月立ち上げた。

ONLでは毎月ミーティングを開いてゲストを呼び、起業を志す人たちを対象に講 演してもらう。Seed Acceleratorという起業コンテストも開催する。審査に通っ たチームには最高で90万円の支援金と、メンターに指導を受ける機会、オフィス スペースなどを与える。その対価としてONLは、実際に起業に至ったチームに対 して一定の枠内で投資をする権利をもらう。

ONLは、僕がシンガポールで設立したファンドやメンターチームとも密接に連携 する。シンガポールのファンドからの出資や、シンガポールやその地域で僕たち が一緒に仕事をすることになるスタートアップや起業家とのパートナーシップが 生まれたりすることを望んでいる。

僕自身はONLの活動に毎日のように関わることができないけれど、僕の好きな三 つの会社のサポートによって、次世代の日本の起業家たちを育ている気概に満ち た、若くて根性のあるチームが運営に当たる。

ONLにどんな人々やアイデアが集まるかを楽しみにしている。そして、その中か ら世界で勝負できるビジネスを生み出せることを信じている。

幼少期から、あらゆる人たちにこう言われ続けてきた。集中しろ。集中しろ、しろ、しろ、と。僕は執着するのは得意なのだが、一つのことに集中するのは苦手なんだ。あらゆるものが面白いと思うので、結果としてすべてのことに集中してしまう。

John Hagel、John Seely BrownおよびLang Davision共著の新刊「The Power of Pull」では、世界は変わりつつあるのだと述べられている。従来のように、リソースや情報をストックしたり、すべてを制御し計画したり、通達や命令を中枢から辺縁に流す代わりに、今や革新は辺縁で起こっているのであり、リソースはストックしておくのではなく、必要に応じて調達するようになっているのだ、と。世界がストックからフローへと移行しつつあるのだ、と。Techcrunchに、僕が登場する同著の抜粋が掲載されている。

この本に書かれている素晴らしい考えの一つに、目指したい行き先の大まかな方向は設定すべきだが、セレンディピティを受け入れ、ネットワークからリソースを提供させてどんな偶発的な事象も価値あるものに変えるようにすべきであり、互いに共有し、他者の問題解決や構築を手伝うかたちで繋がり合うことにより、そのネットワークを発展させるべきだ、というものだ。

この考えは僕に、Edward Hallが定義したポリクロニック・タイムとモノクロニック・タイム(P時間とM時間)の対比を強く想起させる。M時間では時間や空間をミーティングやキュービクルに細分化し、組織や機関の大規模な拡張を可能にする。P時間は、さながらアラビアの「マジュリス」のようなものだ。何人もの人が一斉に呼ばれ、ひと連なりの長い意識の流れのように、シークがいろいろな合議のためにいろいろな人々を招き入れる間、誰もが待合室を往き来する。この場合、拡張性や秩序には欠けるものの、コンテキストとセレンディピティに溢れている。もしすべてを計画してしまったら、どこかでセレンディピティに恵まれたり、「幸運」に出くわしたりする可能性は非常に低くなってしまうだろう。

僕が経験した珠玉のミーティングの多くはセレンディピティ的であり、マーク・グラノヴェッターの「弱い靭帯の強み」と同様に、普段の付き合いの枠を超えたそういったコネクションこそがしばしば、明白な裁定の機会をも超え、最も大きな価値を提供するものとなる。

つまり、僕の人生は完全に混沌としていてまとまりが無いように見えるかもしれないけれど、前回の投稿を振り返ってみても、僕はエネルギー価の高い人たちとセレンディピティ的イベントで構成された、非常に豊富なネットワークに浮かんでいるのであり、一日も欠かすことなく、「よし! 今とてもいいことをしたぞ!」という実感を味わうことができている。移動が多いので疲れるし、安定性を欠いているために若干の混乱を伴うものの、僕は愛情にあふれた、冴えた人たちに囲まれていて、これまでの人生で最も幸福を感じているという実感がある。

僕の夢は今でも仏陀的な意味で精神の平穏と幸福を得ることだけど、そこに到達する経路はおそらくどこかの山あいの洞窟で瞑想をするのではなく、エネルギーの流れからなるネットワークに身を置くことを含む、なんらかの太極拳的な取り組みではないかという気がしている。

この「満遍なき注力」というモデルがどんな結果をもたらすのかはこれから見ていくとして、それが効果の無いものだとは思わない。とはいえ一応、お決まりの注意書きとして、「むやみにマネをしないように」と「効果には個人差があります」は書いておきたい。

2000年、黎明期のインキュベーターたちの絶頂期に、僕はネオテニーという会社 を興した。CMGIやICGといったインキュベーターは、ポートフォリオ企業の価値 を大幅に引き上げ、JH Whitneyのようなファンドが、世界中のインキュベーター の後ろ盾となっていた。

いくつものスタートアップ企業のCEOを経験したことがきっかけで、僕は投資側 への転進を考え始めた。日本で広いネットワークを築いた結果、一つのビジネス の経営に専念するよりも、ポートフォリオ企業を管理する方が自分は向いている と思うようになった。

僕は何人ものファンド運営者と話をし、ベンチャーパートナーとして参画するこ とを検討した。そして、迅速な資金調達と、(投資される側にとっても)納得し 得る投資条件を備えたインキュベーターを設立する、というアイディアをもっ て、ネオテニーという会社を興す事にしたピーク時にネオテニーには、PRチーム からエンジニアリング、人事コンサルティング、研究開発に至るまで、総勢40人 が働いていた。ネオテニーはインキュベーターに必要なすべてのサービスを提供 する企業で、世界中の大型インキュベーターをモデルとして設立された。

僕たちは、アーリーステージの企業への投資をいくつも実行することを通じて、 インキュベーションプロセスの確立を行った。インキュベーターとしての活動が まさに本格的になったときに、それぞれのインキュベーターが保有するポート フォリオ企業の大幅な価値の下落に応じて、インキュベーターの価値そのものも 下落した。

一部の投資家は、赤字の圧縮と資金の返還を迫ってきた。僕の人生の中でもっ ともつらいビジネス経験だった。そして、CEOはもう二度とやらないと誓っ た。(Lawrence LessigとCreative Commonsの役員たちが、僕をCreative CommonsのCEOにするまで、それは事実だった。)僕は、ほとんどの従業員を解雇 しオフィスを閉じて、次にどんなビジネスをするか考えなければならなかった。

日本のインターネット市場について、投資案件の質の点で失望されてばかりいた ネオテニーの終わりのころ、Justin Hallのおかげでブログを知り、ブログの執 筆を通じてMovable Typeを使うようになった。そして、日本市場にこだわること を考え直し、投資先として米国のブログ関連企業を探すことにした。

Movable Typeを開発したBenとMenaとの最初のミーティングはとてもうちとけた 感じだった。でも、資金調達に興味がないと言われてしまった。その後も彼らと はいい関係を保っていたけれど、どうしてもブログ業界に出資がしたかったの で、Blogger社のEvan Williamsと彼のチームにも会ってみた。そして彼らは、す でにベンチャーキャピタルの出資を受けていたこともあって、増資についてオー プンな考え方を持っていることを知った。

ところが運の悪いことに、僕がEvanと彼のチームに投資の条件を提示した翌日 に、BloggerはGoogleから買収の提案を受けてしまった。そして彼らはGoogleを 選んだ。しばらくすると、BenとMenaは僕らを悪くないと思ってくれ、Six Apart 社への投資提案を受け入れてくれた。

僕はSix Apart社に投資ができてとても幸せだった(いまでもとても幸せだけ ど)。当時、ネオテニーに参画する投資家には、投資先を国外にシフトすること を望まない向きがあった。そこで、僕らはそこで我々は未投資残金を(返却を求 める一部の Fund 投資家に)返却し、ネオテニーの役割を日本でのSix Apart社 のビジネスの拡大と、既存のポートフォリオの管理、そしてSix Apart社の大株 主に絞り込んだ。

ネオテニー時代を振り返ってみると、Six Apart社のようによい投資先は、イン キュベーターの「サービス」を実際には使わないということに気付く。本当に根 性がある起業家は、自分たちで安いオフィススペースを見つけ、さまざま なスタッフを採用し、どのようにインキュベーターを利用すればいいかを心得て いる。彼らにはインキュベーションの「プロセス」というものが必要ないとすら 思えるほどだ。むしろ、大企業が社内のアイデアをもとに事業を育成する際に、 僕らの確立したプロセスを使いたがる傾向にあることがわかった。実際、ネオテ ニーからスピンアウトしたチームは、僕らのプロセスを使って、日本の大企業向 けのコンサルティング商品に使っていた。

思い返せば、僕らの投資ポートフォリオのパフォーマンス自体はそれほど悪い ものでは無かっただろう。厳しい投資時期に於いても、ファンドとしては成功し たと言って良いかもしれない。しかし、コンサルティングとインキュベーション 事業を組成し、そして中止したという(コスト)要素を勘案すると、ファンドと して成功した、と投資家から見なされるには、シックスアパート社の非常に大き なイグジットが必要だ。(シックスアパート、頑張れ!)

ネオテニーのコア事業を整理した後、僕はReid Hoffmanとエンジェル投資事業を 始めた。彼と一緒に僕は、Flickr, Last.fm, Technorati, The Sixty One, Kongregate, Rupture, ping.fm, Wikia, Aviaryやその他の多くの企業に投資し た。僕は、林さんといっしょに創業したデジタルガレージに役員として復帰し た。デジタルガレージは、PSINetジャパン、インフォシークジャパン、カカクコ ム、イーコンテクストなどの事業を育ててきた公開会社だ。デジタルガレージは また、Twitterに投資しながら、Twitterの日本事業の支援も行っている。

僕はこれまで、スタートアップ企業をどのように支援するかについて、経験をつ んできたし、たくさん考えてきた。ネオテニーで起こったことがトラウマになっ て、体系化された事業育成については懐疑的な考えを持つようになった。そし て、独立した起業家ではなく「クラブ」の一部になることを好む起業家の育成に は別の育成方法があるような気がしてきた。また、それぞれの国によって状況は 異なり、日本ではデジタルガレージのような大きな事業会社が、小さな会社を育 成するにあたって重要な役割を果たすということもわかった。従業員がリスクを 回避できるうえ、小さな会社がオペレーションを軌道に乗せるのは簡単ではない からだ。

また、ネオテニーの頃と比べると、クラウドコンピューティングやアジャイル型 のソフトウエア開発手法、スタートアップのエコシステムによって、インター ネットの新事業を立ち上げるために必要なコストが著しく下がり、スピードはあ がった。さらにインターネット事業の市場は世界規模で広がった。こうした著し い状況の変化は、事業育成の方法にも影響を与える。事業育成自体がもっと堅実 なものになってきた。投資規模は小さくて済むようになり、すべてのことがス ピーディーに進むようになった。(ベンチャーキャピタルの将来については別の 記事でも触れている)

エンジェル投資で僕の一番身近なパートナーであるReid Hoffmanは、今年 Greylockというベンチャーキャピタルに加わった。そして僕はといえば、いくつ かの投資案件を整理し、CEO恐怖症を克服しつつある。これまで学んできたこと や培ったネットワークを生かし、ここ数年準備してきた事業育成のプロセスに必 要ないくつかの要素を用意するには、いまが一番良いタイミングだと思う。

僕の新しいセオリーは、新規事業のインキュベータ/アクセラレータというのも は日本においては、事業会社のネットワークや支援があれば十分有効であるとい うものだ。先日、デジタルガレージとネットプライスドットコムのチームが中心 となって「Open Network Lab」を立ち上げた。これは米国でうまくいっている、 スタートアップ/アクセラレータプログラムをモデルにした。こうしたプログラ ムを参考に、日本ならではのチューニングをすることで、ネットワークの構築を 進めたいと思っている。

僕は、中東の市場について理解をしようと昨年くらいから活動してきた。その中 で、中東にインキュベーションの拠点を持つことはまだ少し早すぎるということ と、日本や米国の人的ネットワークと、中東のそれを結びつけることが簡単では ないことを学んだ。シンガポールを何度か訪問し「un-conference」を開いてみ て、ヨーロッパ、アラブ、イスラエル、日本、中国、インド、米国にある僕の ネットワークを結びつける拠点としては、シンガポールが適していることを知っ た。そこで、僕はスタートアップ用に小さなファンドをシンガポールで立ち上 げ、他のインキュベーター6社とともに、財務面でさまざまな便宜を図ってくれ るNational Research Foundation of Singaporeから、特別な取引条件をもらった。

Neoteny Startup Fund 1」と名づけた今回のファンドの目的は、アジア、中 東、場合によっては北米地域での投資だ。起業家にとってフレンドリーなため、 シンガポールがハブになるが、僕自身も、世界中の共同投資家やインキュベータ そして企業を結ぶネットワークを作り、設立当初から世界に目を向けて、さまざ まな文化の違いを吸収できるスタートアップ企業を生んでいこうと思っている。

僕はとてもエキサイトしている。人生の新しいフェーズで思い描いたとおりのス タートが切れたからだ。これからもドバイに住み、アラブの起業家を育てスター トアップに力を貸していくことが、平和にとって大切で、僕がこの地域でできる ことだと思っている。また、莫大な可能性を秘めているアフリカとのつながりを 作ることも目標においている。

たった数年前まで、ネットワークがこれほど広がりバラエティに富んだものにな るとは思っていなかった。しかも、これほどさまざまなメンターや投資家、パー トナーを自分のネットワークに集められるとは想像もできなかった。というもの の、それができたのも、Mika、James、Seanや、デジタルガレージのチームの支 援があったこそだ。

これまでのところ、最初に出会った仲間や起業家にはとても勇気付けられている。

現在でも僕は半分の時間をCreative CommonsのCEOとしての任務に当てている。 残りの時間をシンガポールのファンドや、ポートフォリオ企業、そしてデジタル ガレージを中心としたOpen Network Labを含む新しいプロジェクトに割く。デジ タルガレージは今後も日本における僕の拠点だ。そして、Twitter社のアドバイ ザーとしての役割、特に日本でデジタルガレージとTwitterが行っている活動の 支援も続けていく。

また、現在就任している、営利企業、非営利企業の役員としての責務も果たすつ もりだ。でも、自分が貢献できそうもないものについては、見直していく。

僕は、自分の生活をシンプルにしたり管理しやすいものにする点については、上 手ではない。でも、いまインパクトのあることをするための機会と責任を持って いると信じている。そして、いまの状況はそのために最適だと思う。

シンガポールと、Open Network Lab、そしてCreative Commonsの将来とTwitter の日本事業については、また別のブログを書くつもりだ。