ハーバード・A・サイモン著『システムの科学第3 版』に関するノート
サイモンが展開する思考と表現のモデルは実に面白い。彼自身の言葉を借りれば、
「状態」と「過程」の描写が秀逸なのだ。
サイモンは、あらゆる物事は一見複雑に思えるが、いったん考え方と視点を定めれ
ば言葉で表現できないものはない、と結論づけているようだ。
一般に構成要素(まとまり)内の相互のつながりの方が、構成要素間のつながりよ
りも強いという意味で「分解可能な」階層の仕組みを、彼は説明している。(1)ある
いは……高周波のものには低周波のものとは異なる力学がある。このため、進化は
階層レベルで進むことが多い。また、分解可能な階層は概念としてより単純にする
ことができる。全体の内部のデザインとそれぞれの構成部分の機能や「効率」のデ
ザインとを分けて観察できるからだ。従って、DNA鎖の適応機能も、それぞれの
器官機能の内部の状態よりも、器官どうしの配置に決定づけられる、というのだ。
このモデルはどうかと思う。それぞれの構成要素のデザインが、ある階層には影響
を与えなくても、別の階層には関わっているとうことも考えられる。それは直線的
ではなく、数値化してみても「効率的」だとは考えにくい。例えば、器官や皮膚の
色は一定の変数に直接影響しないかもしれないが、適応という観点からすると、特
定の状況下でのみ重要な影響をもちうるかもしれない。特に情報や文化が関わるよ
うな複雑な階層システムに組み込まれた「無秩序」は無視できない。この無秩序
を、サイモンは、階層の複雑さと分けて考えている。彼が説く他のモデルも同様の
ようだ。しかし、このモデル自体がかなり制約されているように思う。私には、無
秩序な組織が「表現」できる「勘」のようなものがある。言葉につくせる論理では
ないが、還元法的に物理的な世界と関わる一方、別の形で情報に基づく無秩序に関
与し、その両方が調和する世界を見つけて結論をだせるようにしてくれるもの。直
線的なロジックではなく、自然なものとより深く関わりあう美術、人間学、社会学
の命題への答えは、しばしばこの感情に近いものの中にみつかる……
類似のものを分解し、階層をまとめて数を減らしたり、一定のやり方で整理しなお
したりして新しい視点を組み立てることで、彼は複雑なものを単純化していく。実
に面白く、おそらく有効でもあるやり方だが、事象の保存や操作を効率的にする
様々な方法ではあっても、それぞれの方法はすべからくある一定の方向、あるいは
解決策に偏りがちである。 (2) サイモンは、実利機能を最大にする最適市場のモデ
ルのばかばかしさについても言及している。的確な解決策を見つけることはできる
が、唯一絶対の最適な解決策というものはない、と。この考え方は、複雑なものを
説明する方法についてもあてはまるのではないかと思う。
彼のスタイル、アプローチ、方法は良いが、ゆるいつながり、文化、および直線的
ではない相互関係の影響をを過小評価するあやうさがあるのではないか。一方で、
複雑なことも厳格に考えていくという実に知的刺激に満ちたことが可能になること
も確かだ。思考回路が直線的であるとする彼の考え方は使える。(非論理的な意思
決定過程、夢想、感情などについては触れられていないが。)実利機能で全てを説
2
明するのは単純すぎ、向上心、または最低限の状態の維持も人間の動機づけにな
り、最適化という考え方のみを用いることによる問題にある程度の解決策をしめし
てくれるという彼の見方は役に立つ。他方、信頼ネットワーク、コミュニティー、
SWT、常識、文化などは、向上心や必要最低条件の計算では説明しきれない複雑な
ものであるとも思う。
組織の役割について、市場のそれと対比させた彼の論述も興味深い。これはチャン
ドラーにつながるのでそれまでおいておこう。
1.これはゆるいつながりのもつ力についてだ。サイモンは、SWTについて
考えるにあたって非常に有用な科学的研究法を使って、いくつかの例をあげ
ている。マクロレベルでは重力が電気導力より重要であるという考え方は、
SWT の好例だろう。周波数について考えてみてもいい。
2.ホールは『文化を超えて』の中で、他人も自分と同じような考え方しかし
ないものだと思いこむことの危険性にふれている。サイモンの表現を文字通
りに解釈することは、文化的な溝をより広げてしまうことになりかねない。
例えば、一般に認められた会計原則であるGAAPは構成要素を整理するの
にはよいが、ある種の資産を見えにくくし、たとえ「市場」がそれを現実と
みなしているとしても、特定の見解に基づいていることには変わりない。
メモ:
以下、サイモンが「まとまり」ととらえているものに関する引用を並べてある……
読み進むうち、そして最終章にたどり着くころには、彼が、後に階級・複雑な構
造・分解の可能性についての結論に導くための伏線を張っているのだということに
気づいた。とりあえず引用だけ書き留めておき、後でゆっくり消化し、彼の結論を
まとめよう。
引用
メモ
ものごとは対称的にみることができる。人工物は、それ自体の内容と組織である
「内部」環境とそれが機能する周囲の「外部」環境の合流点、今日的な言葉で言え
ば「インターフェイス」だといえる。(6 頁)
我々は、人工の科学をよりどころとすることで、抽象化と一般化の主たる道具であ
るインターフェイスの相対的な平易さに依存することになる。(9 頁)
3
良好な環境におかれているとき、人は原動機から本来の役割のみを学ぶが、苦痛を
強いられているときは、その性能を制限する主たる要因となっている内部構造に注
目しがちだ。(12 頁)
コンピューターは象徴組織、厳密にいえば、物理的象徴組織と呼ばれる種類の人工
物のなかでも重要なものだ。同じ種類に属する象徴組織は……人間の心と頭である。
(21 頁)
計算機能としての知能(インテリジェンス)……知能は象徴組織の機能だ……物理的
徴組織……総合的な知能行為のための必要にして十分な手段がある……(23 頁)
第二章:経済的合理性:適応性のある脳のはたらき……経済学は、内外の環境がどの
ように相互作用をおこし、特に、ある知能組織の外部環境への適応(本質的な合理
性)が、知識と計算による、的確な適応行動(過程の合理性)を見極める能力にど
のように制限されるかを明らかにする。(25 頁)
今日では幾分野にもわたる応用科学によって、企業は過程の合理性を極められる。
そのひとつが複雑な資料を数理学的に分析するオペレーションズリサーチ(O
R)、もうひとつが人口知能(AI)だ。(27 頁)
ORは直線的で、AIは帰納的……
人間の選択が、実利主義に基づく一貫した推移的なものでないことを示す実例は、
枚挙にいとまがない。(29 頁)
こうした現象を扱うにあたり、心理学では願望レベルの概念を用いている……この手
法を適用した選択の理論は、人間の計算能力には限りがあるとし、我々の人間の意
思決定について、実利最大化の理論よりも余程、我々の経験的な観察と合致する。
(30 頁)
4
通常「市場」経済の縮図にたとえられるアメリカ経済において、人間の経済活動の
うちおよそ80 パーセントは市場における独立した組織間にではなく、事業体やその
他の組織などの内部的な環境のなかで行われる。誤解を避けるためには、そうした
社会を組織市場経済と呼ぶのが適当だろう。より正確に現実を把握するためには、
市場と同様に組織にも注目しなければならないからだ。(31-32 頁)
新制度経済(NIE)を語るにあたって焦点となる問題は、何が組織と市場の境界
をきめるのか、それはどちらが、どのような場面で、経済活動を組織する決定要因
となるのかということだ。(40 頁)

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