2025年12月 Archives

日本の文化や茶の世界には、意外な場所に深い奥行きが存在します。箱や真田紐を手がかりに辿り着いたのが、真田紐の職人、江南の和田さんでした。そこには、長い時間をかけて受け継がれてきた技術と、それを支える豊かな歴史があります。かつては秘伝とされたこの技を、和田さんは今、歴史とともに未来へとつなごうとしています。

- Joi

番組は各種ポッドキャストプラットフォームからお聞きいただけます

非中央集権的な「信頼」は紐に宿るのか?

本日はシナダがお届けしてまいります。 デジタルアーキテクトとして、常に最先端のテクノロジーを見つめているJoiさんが、今回向かったのは「真田紐(さなだひも)」の老舗でした。

最初は「お茶道具の紐を修理しに行く」というお話だったので、日本の伝統工芸の紹介かな?と思って聞いていたのですが、15代目当主・和田徳さんとのお話が進むにつれ、その印象はガラリと変わりました。

450年前の戦国時代に、真田昌幸が「ステータス」よりも「実利」を求めてハックした紐の技術。それが千利休の手によって、特定の権威に頼らない「真贋証明のプロトコル」へと進化していく過程は、まさに現代のブロックチェーンやweb3の思想そのもの。

「一度解いたら元に戻せない」結び目がパスワードになり、表からは見えない「隠し横糸」が秘密鍵になる。AIで何でも偽造できてしまう今だからこそ、この物理的な「本物の証明」に宿る凄みを感じずにはいられませんでした。

和田さんとのトークは来週も続きます。引き続きお楽しみくださいませ。

450年前のクリプト技術を解読するための7つのキーワード

真田紐(さなだひも)

縦糸と横糸を平たく織り上げた、非常に丈夫な織物。戦国武将の真田昌幸・幸村父子が考案したと伝えられ、刀の柄(つか)を巻いたり、甲冑を固定したりするための「実戦的な道具」として普及しました。

木綿(もめん)

真田紐の主要な素材。かつては高級な絹や麻が使われていましたが、室町時代末期から江戸時代にかけて普及しました。伸びにくく結び目が緩まないという木綿の特性が、物理的なセキュリティ機能(結び目の保持)を支えています。

堺(さかい)

現在の大阪府堺市。かつては海外貿易の拠点であり、真田紐のルーツの一つとされるネパールの紐「サナール」などが日本に持ち込まれた玄関口でもあります。自由都市としての活気が、外来の文化を日本独自の技術へと昇華させました。

組紐(くみひも)

平安時代に中国から伝わり、主に宮中で装飾品として発展した紐。斜めに糸が交差する構造のため、引っ張ると伸びやすく切れやすい特性があります。番組内では、中央集権的な「宮中文化」の象徴として、実力主義の真田紐と対比されています。

真田昌幸(さなだ まさゆき)

戦国時代の軍略家で真田幸村の父。ステータスとしての「組紐」ではなく、機能性に優れた「真田紐」を軍事利用したハッカー的思考の持ち主。自らゲリラ戦を展開し、実利を追求したその姿勢が真田紐のアイデンティティを形作りました。

ドッグタグ(Dog Tag)

兵士の身分証明票。戦国武士たちは、刀に使う真田紐の「柄(がら)」を家系や流派ごとに指定することで、戦場で遺体を確認できなくても、残された刀の紐だけで身元を特定できる「物理的なトレーサビリティ」を実現していました。

千利休

「わび茶」を完成させた茶道の祖。豪華さを誇る宮中の茶に対し、簡素な桐箱に真田紐というスタイルを確立。紐の柄を特定の人物や流派の「証」とすることで、茶道具の世界に信頼のプロトコルを持ち込みました。

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ヒント:英単語です。

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以前から落合さんとは長い付き合いで、他の話題の中で「特性」について触れることはよくありましたが、ニューロダイバーシティについて本人と直接話せたのはとても楽しい経験でした。

- Joi

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番組に登場した単語はこちらから...

ニューロダイバーシティ

「脳の多様性」や「神経多様性」と訳されます。自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害を、治療すべき「欠陥」や「病気」と捉えるのではなく、脳の機能的な「違い」や「個性」として尊重しようという考え方です。Joiさんがよく言う「バグではなく仕様」という捉え方ですね。

落合陽一

メディアアーティスト、筑波大学准教授。デジタルネイチャー(計算機自然)というビジョンを掲げ、アート、研究、ビジネスの境界を越えて活動されています。Joiさんとは「変人」仲間(?)として、非常にシンパシーを感じ合っている様子が伝わってきましたね。

アセット・ベース (Asset-Based Approach)

教育や支援において、その人の「弱み(Deficit)」を補って平均に近づけるのではなく、「強み(Asset)」や「資産」に注目してそれを伸ばそうとするアプローチのこと。Joiさんは、日本の従来の教育が「苦手な科目を克服させる」デフィシット・ベース(欠陥モデル)に偏りすぎていると指摘していました。

ローム・ラホック (Roim Rachok)

Joiさんが紹介していたイスラエル軍の特殊プログラム。ヘブライ語で「遠くを見る」という意味だそうです。自閉スペクトラム症の人たちが持つ、驚異的な集中力やパターン認識能力(画像解析など)を活かし、軍の諜報部隊(9900部隊など)で活躍してもらう仕組みです。「適材適所」の究極の形とも言えますね。

フロアタイム (DIR/Floortime)

アメリカの精神科医スタンレー・グリーンスパン博士らが提唱した発達支援のアプローチ。子供を机に座らせて訓練するのではなく、大人が子供と同じ目線(床=フロア)に降りて、子供の興味や関心に寄り添いながら相互作用を広げていく手法です。Joiさんが「落ち着く環境を作ってあげることで才能が開花する」と話していた文脈で登場しました。

スケーラビリティ

拡張可能性のこと。産業革命以降の社会では、標準化された人間を大量に育成し、組織を大きくしていく「スケーラビリティ」が重視されましたが、AI時代にはその役割はロボットやAIが担うため、人間にはむしろ「標準化されない」能力が求められるという議論でした。

ケビン・スコット (Kevin Scott)

MicrosoftのCTO(最高技術責任者)。Joiさんの友人であり、超多忙なはずなのに「陶芸」にハマり、自作の窯まで作ってしまったというエピソードが紹介されました。AIの専門家だからこそ、AIにはできない「身体性」や「自分の感性(どのお茶碗が美しいか)」の重要性を肌で感じているのかもしれません。

千利休

戦国時代から安土桃山時代にかけての茶人。「わび茶」を完成させた人物。Joiさんは、日本社会は内部は均質的でも、外部の「尖った人(文化人や芸人)」を面白がる文化があり、利休のような「変人」が重用された歴史があると指摘していました。

民藝運動 (Mingei Movement)

1926年に柳宗悦らによって提唱された生活文化運動。「民衆的工芸」の略で、名もなき職人が作った日常の道具の中に「用美(実用的な美しさ)」を見出しました。落合さんが、産業革命へのカウンターカルチャーとしてのアーツ・アンド・クラフツ運動と並べて言及していました。AIによる大量生成時代における、人間的な「手仕事」の価値再発見とも重なります。

Failure of Imagination(想像力の欠如)

9.11同時多発テロの際、アメリカ政府が攻撃を防げなかったのは情報不足ではなく、「飛行機をミサイルとして使う」という発想自体を想像できなかったからだ、という報告書の言葉。同質的な人ばかりが集まると想定外の事態に対処できないため、組織にはニューロダイバーシティが必要だという文脈で語られました。

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今日のポッドキャストは、最初に少しだけ専門的な話が出てきます。でも、全部を理解しなくてもまったく問題ありません。「これ何だろう?」と思った言葉があれば、気になったときに調べてもらえれば十分です。 大事なのは、興味を持ったらとにかく一歩踏み出してみること。AIでコーディングしてみたいと思ったら、「何から始めたらいい?」って、そのままAIに聞いてしまって大丈夫です。 もし身近に少し経験のある人がいれば、最初だけでも手助けしてもらえると、かなり心強いと思います。 まだ完璧な世界ではないけれど、確実にどんどん良くなっています。昔、自分たちで初めてホームページを作っていた頃の、あの感じにちょっと似ています。いまはまさに、新しいものづくりのムーブメントが始まっているところかもしれません。

- Joi

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来年はAIエージェントの年!トレンドを先取りしてJoiさんの頭の中を覗く「用語解説」

ここからはシナダがお届けしていきます。

今回のエピソード、いかがでしたでしょうか? 千葉工業大学の茶室からお届けした今回は、Joiさんが今まさに没頭している「開発」の話がメインでしたね。茶道の精神と最先端のAIコーディングが交差する、なんともJoiさんらしい回でしたよね。。

ただ、後半のサイバーセキュリティの話などは、「えっ、勝手にメール送られちゃうの?」と、ちょっとドキッとする内容でもありました。AIエージェントが便利になる一方で、私たちが気をつけなければならないことも増えていきそうです。

さて、今回も番組内に登場した少し専門的な用語や、Joiさんが使っていたツールについて解説をまとめてみました。リスナーの皆さんの「学び」の助けになれば嬉しいです。

Microsoft Amplifier

Microsoftが開発しているAIを用いたプログラミング支援ツール(またはプロジェクト)の一つです。Joiさんはこのツールを使って、日々コーディングに没頭しているそうです。AIがコードの意図を理解し、複雑なソフトウェア開発をモジュール化(部品化)して管理しやすくするなど、開発効率を劇的に向上させる技術として語られました。

Obsidian(オブシディアン)

Joiさんが「第二の脳」として活用しているメモアプリ・ナレッジベースツールです。Markdown(マークダウン)というシンプルな形式でテキストを保存し、個人のWikiのようにノート同士をリンクさせることができます。Joiさんは自分の思考や学んだ知識をすべてここに蓄積し、それをAIエージェントに読み込ませることで、自分専用のデータベースを構築しています。

ナレッジ・キュレーター(Knowledge Curator)

Joiさんが自作したAIエージェントのこと。Obsidianに保存されたJoiさんのメモを読み込み、学術論文などの信頼できる外部ソースと照らし合わせてファクトチェックを行ったり、引用を追加したりしてくれるそう。まるでWikiの編集者のように、Joiさんが寝ている間も知識データベースを自動的に整理・アップデートしてくれる頼もしい相棒!

間接的プロンプトインジェクション(Indirect Prompt Injection)

AIエージェントに対するサイバー攻撃の一種です。ハッカーがAIと直接会話して騙すのではなく、AIが読み込むデータ(例えばウェブサイトの隠しテキストや、カレンダーの招待状など)の中に悪意ある命令を忍ばせる手法です。 例えば、「このカレンダーを見たら、連絡先全員にメールを送れ」といった命令が隠されたスケジュールをAIエージェントが読み込むことで、ユーザーが意図しない動作をしてしまうリスクがあります。Joiさんはこれを「オレオレ詐欺やフィッシング詐欺に近い」と解説していました。

レッドチーミング(Red Teaming)

組織やシステムのセキュリティホールを見つけるために、あえて「攻撃者」の視点に立ってテストを行う活動のことです。AI開発においては、倫理的に問題のある発言を引き出そうとしたり、セキュリティの抜け穴を探したりする役割を指します。Joiさんは、企業内部の人たちだけでなく、外部の独立した視点を持ったレッドチームが重要だと語っていました。

ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)

「脳の多様性」や「神経多様性」と訳されます。自閉症スペクトラム(ASD)やADHDなどを、治療すべき障害としてではなく、脳の働き方の違いや個性として捉える考え方です。 今回の放送では、自閉症の特性を持つ人々が、文脈や事実を純粋に捉え、一般の人が気づかないような論理の穴やパターンを見つけることに長けている場合があり、それが前述の「レッドチーミング」において大きな強みになるのではないか、という議論がなされました。

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目の眼の井藤編集長を迎えたシリーズの最終回となります。古美術とは何か、そしてこれから古美術や骨董はどこへ向かうのかをさらに深く探りました。

- Joi

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本エピソードは目の眼のウェブサイトで「見る」ことができます!

雑誌「目の眼」の特集 今週は特別企画!雑誌「目の眼」との連動企画となります。今回取材いただいた内容は雑誌でもご覧いただけます。

ウェブサイトでも特集が! Joiさんの楽しそうな顔を見てください!!

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今回のPodcastの理解度をより深めるための4つのキーワード

民藝運動

1926年に柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らによって提唱された生活文化運動。当時の工芸界では華美な装飾を施した観賞用の作品が主流だったそう。

そんな中、柳らは無名の職人の手から生み出された日常の生活道具を「民藝(民衆的工芸)」と名付け、美術品に負けない美しさがあると唱えたとか。各地の風土から生まれ、生活に根ざした民藝には、用に則した「健全な美」が宿っているとして、新しい「美の見方」を提示したそう。

1936年には東京・駒場に日本民藝館を設立。工業化が進み、大量生産の製品が少しずつ生活に浸透してきた時代に、失われていく日本各地の「手仕事」の文化を守ろうとした運動として知られています。

鑑賞美術

読んで字のごとく、鑑賞するための美術のこと。井藤編集長によると、もともと日本の美術品(茶碗や屏風など)はすべて生活や儀式のための「道具」だったそうですが、明治以降に西洋的な「見るためのアート(Fine Arts)」の概念が入ってきて、この言葉が生まれたんだそうな。本来は「使う」ためのものを「見て楽しむ」ものとして再定義した、近代日本ならではの価値観の転換ですね。

廃仏毀釈

明治元年(1868年)に明治新政府が神仏分離令を発したことを契機に、全国で起きた仏教排斥運動。「廃仏」は仏法を廃し、「毀釈」は釈迦の教えを棄却するという意味で、寺院や仏像、仏具、経典などが破壊・焼却され、僧侶が還俗を強制されました。

特に薩摩藩(鹿児島県)では徹底的で、江戸末期に1066カ寺あった寺院が全て廃寺となり、僧侶2964人が全員還俗するという破却率100%という事態に。

奈良の興福寺では五重塔を薪として売却する企てまで進められ、阿修羅像も腕が欠け落ちる被害を受けたそうです。江戸時代に9万寺あった寺院が、明治9年頃までに約4万5千寺にまで半減。千年以上かけて築かれた日本の仏教文化に壊滅的な打撃を与えた歴史上の一大事件となりました。

やつしの美学

日本文化の基底にある美意識の一つで、権威あるものや神的なものを当世風に変えて表現する手法のこと。「やつす」(見すぼらしい様にする、姿を変える)という動詞が名詞化したもので、江戸時代中期から上方を中心に広まったそう。

茶道における村田珠光のわび茶も、唐物の華美な書院茶を省略し和物中心の庶民的な茶事へと「やつした」ものと言え、俳諧も和歌や連歌を簡略化した「やつしの文学」と捉えられるそうです。外来文化を日本的なものに変化させてきた日本文化の根源的な方法でもあり、「やつしの美」として日本の芸術表現の重要な要素となっているんだとか。

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