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By: 朝日新聞編集委員 根本清樹

《 伊藤穣一さんインタビュー 》

 Q。まず「創発」という言葉をわかりやすく説明して下さい。
 
「例えばアリは一匹一匹に高い知性はありませんが、群れとしてはとても複雑な共同作業をします。巣をつくり、ごみ捨て場や、死んだ仲間の墓地もつくる。個々の単純な動きが相互に作用し、いわばボトムアップで思いがけない高度な秩序が生まれていく。そういう現象を創発と呼びます。例えば大都市でも、トップダウンの都市計画より住民の相互作用から生み出された街並みの方がうまくいく。これも創発です」

 Q。そういう現象が政治にも生じてくるだろうということですか。

 「はい。例えば米国に『討論型世論調査』という面白い試みがあります。無作為抽出したごく普通の人々を一カ所に集め、税制とか年金とか、ややこしい問題を数日間議論してもらう。すると一人一人のレベルを超えた深い意見が出るようになり、全体としての判断もより適切な方向に変化していく。これも創発的な相互作用でしょう」
 「そういうプロセスが、インターネットの普及でいよいよ発生しやすくなってきました。人々はネットを通じ必要な情報を独自に集め、思考を深め、お互いの間で質の高い議論を交わしている。人々はだんだん賢くなってきている」
 「従来の代表民主主義は、国民が代理人としての政治家を選挙し、彼らに政策決定を委ねていますが、人々が自分で判断し、発信できるようになれば、政治家に何かを決めてもらう必要もなくなるんじゃないか。草の根から、現場から、直接民主主義に近い政治的な秩序が生まれてくるようになるんじゃないか。それが創発民主主義の夢です」
 
Q。いまの代表民主主義には欠陥があるという診断ですね。

 「代表民主主義では意思決定の権限が政府に集中しています。しかし、現代の世界は国際関係にしても経済にしても、ものすごく複雑化し、変化も激しくなっている。政治家たちがそれを全部きちんと理解して、常に正しい判断を下すことができるとはとても思えません」
 「今回の原発事故のように、世の中で起こる重大な出来事というのは、既成の理屈だとかモデルでは想定も説明もできないことが多いのです。そういう想定外の事態に適切に、機敏に対応することは、いまの中央集中的な政治にはできません。複雑化する世界の中で唯一生き残れる方法は、意思決定の権限を分散していくことです。現場主義です」
 「企業を見ていても、イノベーションとか新しいものはほとんど現場とか端っこから来る。問題を解決する知恵や情報やアイデアは思わぬところにある。それをうまく集めて、かたちにしていけば、政治家にはできないような結果を出せる。ネットとかソーシャルメディアは、その過程をサポートする強力な道具です」

Q。そうなると政治家はもういらなくなってしまう。
 
「政治家は指導者というより、進行役とか世話役、管理人といった役割になっていくのではないか。そういう存在は必要でしょう」
 
Q。構想を提唱されたのは8年前ですが、その後、現実のものになってきていますか。

 「8年前は主にブログを念頭に置いて考えていました。ブログは人々の間の議論を深める点でとても役に立つ。ただ議論だけでは世の中は変わらない。やはりみんなが実際に動く必要がある。人間と人間がつながって共に行動を起こさなければならない。そういう面で、その後に登場したフェイスブックやツイッターが今回中東各地ですごく大きな役割を果たしたことは重要です。私はいまドバイに住んでいますが、中東で起きていることは、創発民主主義の重要な実験台になっていると思う」
 「ソーシャルメディアが若者たちに与えたのは勇気です。革命なんか無理だよねと思っていた彼らが『僕らにもできるじゃん』と伝えあった。本当にウイルスのように勇気が伝わって行動を引き起こした」
 「創発民主主義はまだまだこれからだと思います。ただ、注意すべきなのは、短期的な変化の影響はみんないつも大きく見積もり過ぎるのに、中長期的変化については小さく見積もり過ぎるということです。僕らの世代では無理かも知れませんが、今の若い子たちの時代にはそういう方向に行くんじゃないか」

 Q。日本では2年前に歴史的な政権交代が起きましたが、民主党政権は迷走を続け、もう3人目の首相です。世界を飛び回りながら、日本の政治をどう見ていますか。

 「2009年の民主党の勝利は、それはそれですごく重要な出来事だったとは思います。でもやっぱり......日本の政治はあまりに不透明で、それはいまも変わっていない」
 「僕も日本をよくしたいと思って、日本の政治家や官僚と交流し、意見交換してきましたが、彼らは不透明な貸し借りや利害関係に絡め取られ、弱みやしがらみの中で生きている。だから思い切ってバットが振れない。何か筋を通そうとしても、99%は政治のための政治に頭を使わざるをえない。権力を手にするためのゲームのためのゲームです」
 「仮に勝って権力にたどり着いても、たぶんものごとを1㌢進めるくらいの元気しかもう残っていなくて、それで倒れていく。第1次世界大戦の時の塹壕戦みたいなもので、ものすごいエネルギーの浪費であり、膨大な犠牲者を出す。こういう政治のやり方では、民主党だろうが何党だろうが、日本を変えるのは基本的に不可能に近いんじゃないか」
 
Q。そういう不透明さをなんとかなくしていくことはできますか。
 
「いまの日本を見ると、高齢化、人口減少が進み、経済的な破綻に向かって走っているように見える。そういうぎりぎりの状況に追い込まれれば、貸し借りとかしがらみとか言ってられなくなって、政治も変わるんじゃないか。破綻して欲しいとは思いませんが、そういうイメージはある。あるいは、国民がそれこそやむにやまれず立ち上がるような事態が発生する。今回の震災と原発危機で、少し立ち上がりつつありますが。『アラブの春』は突然起きた。日本でも何かが突然起きて、政治が変わる可能性もある」

Q。創発民主主義が代表表民主主義に全面的にとって代わるとは考えにくい。二つをどう接続していくのかが課題ではないでしょうか。
 
「米国では、いろいろな政策についてネットで意見をまとめていくNPOがあります。私がかかわる分野では、プライバシー保護とか著作権の問題などについてネットで議論し、政治家に直接働きかける。草の根が米国政治に与えるインパクトは大きい」
 「日本では草の根と権威ある人たちとのコミュニケーションがあまりない。例えば原発についても、本当の専門家はあまり公の場で意見を言わないし、一般の国民の間の運動の中にはそういうエキスパートがあまりいない。政治に対してもう少し草の根の意見が影響を与える仕組みをつくらなければ」

Q。原発について国民投票をしよう、そのための制度をつくろうという声が市民から出ています。

 「とてもいいことだと思う。原発はあまりに大きな産業なので、政治家たちもどこかで利害関係でつながっているから、判断を委ねてしまうのは危うい。国民が自分で理解して、自分で決める権利を行使すべきです。先ほど触れた『討論型世論調査』の組み合わせてみるといいと思う。これは原発のような高度に専門的なテーマにすごく向いています。3日間くらい缶詰めにして徹底的に議論するんです」

 Q。民主主義をバージョンアップするためのアイデアは、ほかにもいろいろありそうですね。

 「ええ。例えば、自分の投票権を政策課題ごとに仲間とか知り合いに渡していくという手法が考えられています。環境問題だったらあの人が詳しい、エネルギー問題だったらこの人が信用できる、という具合に投票権を委ねていく。委ねられた人はさらに高度なエキスパートに票を渡す。議論を通じ、優れた意見を言う人に次第に票が集まり、最後は一番たくさん集めた人の意見が勝つ。こうした実験を、日本でもやってみればいい。テーマを絞ったり、地域限定にして、『民主主義特区』をつくってみてはどうでしょう」

See Also: 創発民主制 - GLOCOM Review 8:3 (75-2) - 2003 Center for Global Communications (PDF)

朝日新聞 - 伊藤穣一さんに聞く- 創発する民主主義とは

1 Comment

国民の閉塞感が今日ほど高くなったのは初めてであろう。
その根源は“失われた20年”を超え、1985年のプラザ合意に遡ると私は考えている。
それは将来の国の在り方、国民生活が見通せないまま場当たり的な政治をやって来たこと、つまり「少子高齢化」への対応が遅れたこと、産業界も「グローバル化」への対応が遅れたこと、つまりリスクへの挑戦・果実を確保できてないことだ。
経済低迷、財政赤字、大震災、電力不足、超円高の五重苦にある日本をピンチからチャンスに変える方策はあるのか。どのような政策課題をどのような順位で克服していくべきか、事実に基づく現場からの具体的提案をしていきたい。・・・経営コンサルタント 片岡猪三郎

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