3年前にMITメディアラボのディレクターに着任した時、僕の主たる「前職」はスタートアップ起業への投資と助言だった。僕は主にインターネット関連のソフトウェア系・サービス系の会社(Twitter、Flickr、Kickstarter など)に投資をしていた。メディアラボおよびMITに所属することになったのは、僕にとってはちょっとした方針変更だった。世界に影響を与えるという観点では、アカデミアは根本的に別のモデルであり、商業化するのがそこまで容易ではない基礎的な科学や技術に焦点を当てたものだからだ。

メディアラボ着任後にそこの事業に注力できるように、僕はスタートアップ起業への投資をやめる決意をした。(正式にラボでの仕事を始める前に、メディアラボ同窓系の会社である LittlebitsFormLabs に投資していた。)メディアラボとMITについて学ぶことに没頭する中で、各種の科学や技術がこの世に出てきた流れについて学び、考え続けた。とりわけ、人の健康に多大な影響を及ぼす生物医学研究が、多額の先行投資を必要としており、他分野とは大きく異なる様相を呈している点に好奇心をそそられた。僕は生物医学研究についてほとんど知らなかったが、強い興味をおぼえたのだ。

MITに着任する以前から Bob Langer(ボブ・ランガー) の話は耳にしていた。生物医学研究の商業化への貢献、および、バイオエンジニアリング(生体工学)分野の躍進の一助となったことで有名な人物だ。特許を1050件持っていて、何十人もの研究者のグループが傘下にいる。Bob はMITに11人いる、Institute Professor(インスティテュート・プロフェッサー)と呼ばれる、卓越した業績を認められ、各学部長ではなく総長直属となっている教授職の1人だ。

去年6月、Bob の元教え子で、彼のラボ発のスタートアップを経営していた David L. Lucchino(デビッド・L・ルッチーノ)が Bob Langer および友人数名を含むメンツでレッド・ソックスの試合(僕自身は初観戦)に呼んでくれた。隣に座った僕に、Bob が自分の分野について、およびMITでの物事の進め方について教えようと提案してくれた。以後、Bob は僕にとってまさしく師匠と呼べる存在になったし、今ではメディアラボとも提携してくれている。メディアラボを拠点とし、MIT全域におよぶイニシアチブである、Center for Extreme Bionics(先鋭的生体工学のための研究センター)との連携下で、人間の身体障害を取り除くことに焦点を当てた多種多様な技術に取り組んでもらっている。

最近になり、Bob から関連のあるプロジェクトとして、彼がPureTech という会社で協働創設者および上級パートナーとして取り組んでいる仕事について聞かされた。PureTech は主に医療および生物医学分野にて、科学と工学を使って革新的な製品や会社を生み出すことに注力しており、研究者に足場を提供するとともに、技術および会社の初期段階に資金援助しているのだ。

同社では上級パートナー、研究者そして起業家からなるチームが、様々な開発段階にある計11のプロジェクトに取り組んでおり、会社の舵取りは創設者兼CEOである Daphne Zohar(ダフネ・ゾハール)が担っている。表面上はインキュベーターに見えるものの、実際はいくつもの点で新しいモデルと呼べる。PureTech 社内で実際にトランスレーショナル・リサーチ(基礎研究から応用分野におよぶ研究)が行なわれており、PureTech のチームは創設者としても、研究所の運営や実験の実施などの面においても、積極的に活動しているのだ。

Bob の話では、ソフトウェア/インターネット関連の要素がからむ PureTech 系の会社が増えつつあるため、取締役会に同エリアの専門家をもっと入れたいと考えているとのことだった。これは僕視点では理想的なチャンスに思えた。一線級の皆さんに混じって医療、生体工学そして生体医学技術に関する対話に参加しつつ、僕に経験のあるビジネスの一分野のノウハウを提供できそうだと考えた。

医療は万人に関係のあるものだ。我々の誰もが多かれ少なかれ患者兼消費者であり、患者は今後ますます、医療に関する意思決定の中心となっていくだろう。そしてウェアラブルデバイスの台頭により、リアルタイムで我々の生理状態を測定できる技術が普及することになるだろう。技術と臨床の距離が縮まるにつれ、デジタル技術もますます医療の主流に入り込んできて、「electronic medicine」 (電子医療)と呼ばれつつある、驚異的な成長余地を秘めた真新しい分野を形成していくだろう。インターネット系/技術系の会社が判断材料として活用している大量のデータは医療にも活用可能で、リアルタイムでの疾病モニタリングや、ターゲットを絞った新たな患者との連携などが可能になっていくだろう。

先日僕も同社の取締役に就任し、連携先の2社に注力している。1社は Akili という会社で、認知力ゲームを通じた認知力の問題の診断と治療を探求しており、もう1社は学際的なデジタルヘルスプロジェクトを、現在はまだステルス状態で進めているところだ。

医療と生体工学は急成長中の刺激的な分野だと思うし、これらの分野の優秀な研究室がケンドール・スクエア/ケンブリッジエリアにたくさんあるため、立地的な優位性もあると考えている。PureTech が新しい形で人の健康に好影響を与える効果的な筋道をつける一助となればと思うし、僕自身も学び続けながらそれに貢献することを望んでいる。

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