Kevin Esvelt(ケヴィン・エスベルト)氏がメディアラボのオファーを受け、1月に助教として新設の「Sculpting Evolution」(進化形成)研究グループの舵取りをしてくれることになった。

Kevin はハーバード出身の生物学者で、分子生物学の最先端の技術のいくつかを生態工学と組み合わせる仕事をしていて、CRISPR/Cas9遺伝子編集技術の開発に貢献し、CRISPRを用いたジーンドライブの可能性を明らかにした立役者でもある。CRISPRジーンドライブを用いれば、既存の生物のゲノムを編集して以後の子孫に強制的に変更内容を受け継がせることが可能になる。これにより、例えば、蚊を野生に放って時間をかけて野生の蚊がマラリア、デング熱その他の病気を媒介できなくすることができうるのだ。それ以外にも、ライム病をマダニに媒介するネズミに恒久的な免疫をもたせることで根絶を図ったり、住血吸虫症の原因である住血吸虫症を一掃したり、害虫・害獣が作物を食べたがらないようにプログラミングすることで有害な農薬の必要性を軽減できるかもしれない。

ご想像いただけるかと思うが、利点が多々見込まれる一方で、かなりの懸念と、いくつかの現実的リスクも伴うものだ。これらの技術をどのように実用化するかという点に加え、Kevinが取り組んでいる要素のひとつに、研究段階での事故が環境に影響するのを防ぐ安全技術、および、編集内容の効果を解除したい場合に投入できる「取り消し」版の開発が挙げられる。

KevinとGeorge Church(ジョージ・チャーチ)は実験を始める前の段階で既にCRISPRジーンドライブに関する最初の論文を発表しているが、これは彼らが責任ある利用に関する議論を早期に開始するという前例を作ろうと考えたからだ。CRISPRの特徴のひとつとなっているのがコストの低さだ。CRISPRジーンドライブが加われば世界を変えうる変化を世に出すことのできるバイオ系施設の数は確実に増えていくだろう。

本年10月に開催したメディアラボの30周年記念イベントにて、Kevinは聴衆に「誰が決めるべきなのか?」と問いかけた。生態系に不可逆な変化を起こしうると知りつつ、マラリア根絶ないし大量に使われている農薬の軽減を見込んで蚊を野生に放つ判断を責任もってできるのは誰なのだろうか。国民の過半数が進化論を信じておらず、気候変動が重大案件であることを連邦議会が認識できていないこの国においては、大変な命題と言えるだろう。

J・J・エイブラムスとの秘密のミーティングにて、KevinはCRISPRやジーンドライブのような世界を変えうる新科学技術の扱いかたを決めるだけではなく、このような世界を革新しうる技術が発見される頻度が上がり続ける世界に向け用意を進めるべきなのだと説明した。社会としても科学者としても、どうすれば責任ある決断ができるのかを理解するのは非常に重要なのだ。

メディアラボがこれらの新技術の発見、その影響に関する議論、そして責任あるデザインと展開において重要な役割を果たせるよう、ラボ一同願っている。科学という文脈にのっとってデザインを行うことで、根本的なレベルでの省察や倫理的配慮が得られうると考えている。どの領域も世界を見つめる他の多数のレンズから隔離された状態で開発されるべきではない、という指針をメディアラボではこの30年間遵守してきた。遺伝子編集まわりの新たな科学の発信が、科学がデザインと切っては切れない場であるラボにおいて実現しつつあるのを嬉しく思う。そしてKevinはその原則を体現する人物なのである。
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MITニュースでの発表MediumのMITブログにも投稿

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