John Brockman率いるEdgeは毎年難題を提示している。2017年の問いは「What scientific term or concept ought to be more widely known?」(もっと広く知られるべきと思える科学的な語句もしくは概念を挙げよ)だった。僕の答えは:
Neurodiversity(神経学的多様性)

ヒトの神経学的な状態には多様性がある。自閉症など、その中の一部は障害と見なされているものの、ヒトゲノムの正常な差異の結果だと主張する声も多い。神経学的多様性ムーブメントは国際的な市民権運動であり、自閉症は「治療」されるべきではなく、人間の真の多様性の一環として守られるべきだとするものだ。

1900年台初期の頃は、優生学や、遺伝学的に劣ると見なされた人々の避妊手術は科学界に公認されており、セオドア・ルーズベルト、マーガレット・サンガー、ウィンストン・チャーチルおよび米最高裁判事オリバー・ウェンデル・ホームズ・ジュニアなどはこれを積極的に擁護していた。しかし優生学運動に端を発したホロコーストこそが、これらの計画を実践に移した時の危険および厄災のおぞましい実例に他ならない。

自閉症および神経学的多様性の精力的な代弁者であるテンプル・グランディンは、アルバート・アインシュタイン、ウォルフガング・モーツァルト、ニコラ・テスラが今生きていたら「自閉スペクトラム」と診断されていただろうと主張する。彼女の考えでは自閉症は長きにわたり人類の発展に貢献してきており、我々に自閉症的形質がなければ今でも洞窟に住んでいたかもしれないとしている。現在、神経学的な非健常児が伝統的な教育システム内の改善プログラムに入れられ、後から実は天才だったことが判明する事態がしばしば起きている。そしてそういった子供たちの多くがやがてMITその他の研究機関にたどり着いている。

CRISPRの発見によりヒトゲノムの大規模な編集が突如として実現可能になった。現在進められている初期応用例は消耗性疾患を起こす遺伝子変異の「修正」に関わるものだが、それと同時に我々の足を自閉症のみならず、人間社会を繁栄させている多様性の大部分を消してしまいかねない未来に向けさせてもいる。ヒトゲノムに関する我々の理解はまだ初歩的なものなので、知性や性格などにまつわる複雑な変更を適用できるのはしばらく先の話だが、滑りやすい坂道に思える。数年前に見た事業計画では、自閉症とはゲノムの「エラー」に過ぎず、粒子の粗い写真や音質の悪い録音の「ノイズを除去」するかのように「修正」可能だと主張されていた。

自閉症をもって生まれてきた子供たちの中には、確かに、消耗性の問題を抱えていて治療介入が必要な子もいる。しかし自閉症を「治療」しようとする試みは、それが対照的な解決であれ、いずれ行われるであろう遺伝子操作によるものであれ、学問、革新、芸術を含め、健全な社会に不可欠な要素の多くの原動力となっている神経学的な多様性を払拭する結果に繋がりかねない。

健全なエコシステムに多様性が不可欠であるということは、我々はすでに知っている。農業における単一栽培が脆弱で持続不可能なシステムを生み出してきたことも知られている。
僕が懸念するのは、仮に神経学的多様性が社会に不可欠であることを解明して理解できたとしても、標準から逸脱したリスキーな形質を意図的に排除する手段が開発されてしまい、選択肢を提示された時に人は神経学的に健常な子供を望みがちになるのではないかということだ。

障害や疾患を払拭するために我々が進むこの遺伝子操作という道は、科学的にはより洗練されているものなのかもしれない。しかしそれは人類が以前にもたどった道であり、その際には意図しない、不可逆ですらありうる結果や副作用をもたらしたことがあるのを、重々認識しておきたい。

EDGEではいろいろな人の回答が読める。

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