2018年5月13日に、素朴な疑問を投稿してみた:
I may sound a bit naive, but as I read more academic papers in fields that I work in, I realize that they tend to cite academic papers more than blog posts even if there are better blog posts than the cited papers. It makes sense, but just noticing more specifically first hand.
— Joi Ito (@Joi) May 13, 2018
ちょっと青臭いと思われるかもしれないけど、仕事に関する分野の学術論文をたくさん読むようになって気づいたのは、引用される文章はブログよりも論文が多い傾向にあること。内容的にはブログ投稿のほうが優れている場合でも、論文の方が引用されてしまう。わからなくもないことだけど、実際に目の当たりにすることが多くなって、そうだったのか、という思いだ。
240ものリプライが来てはっきり分かったのは、ブログは学術誌の世界では掲載の対象とされていないこと。その理由としてよく挙げられたのは2つあって、リンクの寿命が短いことと、専門家同士による査読がなされていないこと。僕のブログのURLは2002年にウェブサイトをこのバージョンで発表して以来、ずっと変わっていないことを言っておくけれど、前者は理由としては妥当だと思う。解決策としてはいくつかのアイデアがあって、何人かの人たちが指摘した通り、The Internet Archiveは多くのサイトのアーカイブ保存を行っていて、かなりしっかりした実績も残している。
ピア・レビュー(専門家同士の相互評価・査読)に関する議論もかなり行われて、Karim Lakhaniが、ピア・レビューに関して自ら行った研究へのリンクを投稿した。
Here is some sad news about it from my own work https://t.co/aYjhjUZkVm - but maybe it's optimal?
— Karim R. Lakhani (@klakhani) May 13, 2018
@joi
ピア・レビューに関する興味深い研究があるよ。詳しくはhttps://prt.pubpub.org/pub/draft とhttps://prt.pubpub.org/pub/appendix2 を参照。
@klakhani
私が行った研究から、これに関する悲しいお知らせもあるよ: https://pubsonline.informs.org/doi/abs/10.1287/mnsc.2015.2285 ... でも、本当はこの状態が最適なのかな?
Karimはこの研究で「評価者は、自分の専門分野に近い研究提案や新規性が高い研究提案に低い評価を与える傾向があり、これは制度として定着してしまっている」と述べている。
ツイッターでは何人もの人たちがpre-prints(プレプリント)について言及した。これは、査読に時間がかかってしまうため、査読前の原稿を発表するという、最近行われるようになった動向を指す。多くの分野では、ピア・レビューを省き、プレプリントのみを扱っているのが現状だ。いくつかの分野では、臨時のグループや非公式なグループがプレプリントを査読しており、こういった非公式査読グループを参考にしている学術誌もある。
これは、僕たちがお互いのブログの内容を評価し合うやり方にとても似ている。引用し、議論を交わし、リンクを共有する。そして、優れたブログ投稿が一番頻繁にリンクされる。グーグルが創立された当初は、こうして沢山リンクされたブログが検索結果の1ページ目に掲載された。Tim O'Reillyの"What Is Web 2.0"(「ウェブ2.0とは何か」)をはじめとする素晴らしいブログ投稿は、もはや正典といえる存在だ。このため、「教授に『論文ではブログを引用してはいけない』と言われた」という話を聞くたびに、それは違うんじゃないか、と思う。
ピア・レビューがその他の方法より優れていることは確かかもしれないけれど、向上の余地があることも間違いない。MITの研究者が2005年に発明したSCIgenは、無意味な論文を作成しており、そういったデタラメな論文が学会に提出されて受理された例もある。2014年に、120以上の論文がコンピュータに作成されたニセ論文だったことをフランスの研究者が発見し、SpringerとIEEEがそれらを除去した、という出来事もあった。ピア・レビュー自体でさえ、機械によって成功裏に模倣された例もある。
Media LabとMIT Pressでは、PubPubなどの実験を通して、出版の新しい方法に取り組んでいる。ピア・レビューの未来についての議論も行われてきた。ASAPbioのJess Polkaなど、これらの課題に取り組んでいる人たちもいる。ワクワクするような進歩もあるけれど、まだまだ道のりは長い。
僕たちにできることといえば、まずは、ブログを引用しやすくすることだ。ツイッターでは何人かの人たちが「誰が何をしたかは、ブログよりも学術論文のほうが分かりやすく書いてある」と言っていた。僕はJeremy Rubinに促されて、誰かに助言などをしてもらったブログ投稿の場合、文末の謝辞欄にその人の名前を記載するようになった。その例として、FinTech Bubbleについての投稿などがある。また、つい最近、Borisが僕のブログの各投稿の終わりに「引用」ボタンをつけてくれた。みんなにも是非やってみてほしい!次は、各投稿にDOI番号をつけることを検討すべきかもしれない。ただし、個人でブログをやっている人がお金をいっぱい使わずにDOI番号を取得するには、どうすればいいか検討が必要だ。
残念なのは、ブログの引用フォーマットが非常にお粗末だということ。"Cite blog post"(「ブログ投稿を引用する」)をグーグルで検索してみると、"How to Cite a Blog Post in MLA, APA, or Chicago"(「MLA、APAあるいはChicago方式でブログ投稿を引用する」)というブログ投稿に辿り着く。そのブログ投稿によると、この投稿をAPA方式で引用する場合、"Ito, J. (2018, 6月 4日). ブログの引用表記. [Blog post]. https://joi.ito.com/jp/archives/2018/06/04/-00001.html"となる。これには納得がいかない。ブログの名前こそ掲載するべきじゃないのか?MIT Academic IntegrityのウェブサイトのCiting Electronic Sourcesの部分を見てみると、Purdue OWLのページへのリンクがある。Purdueの場合、ブログ・コメントを角括弧をつけて記載するという、やや謎めいた方式となっているが、おおよそ似ているものだ。僕から言わせれば、僕のブログの名前が持つ重要性は、どこかの学術誌に劣っていることはないので、イタリック体で記載することにする。APAのガイドラインなんか守らない。ブログの名前がURLの中でなく、引用文にちゃんと記載されるよう、APAのガイドラインを変更させるには誰に働き掛ければいいのだろう?
Credits
Boris AnthonyとTravis Richがこのブログの引用に関する作業を担当し、引用方式について話し合ってくれた。
Amy BrandがPeer Review Transparencyのサイトへのリンクを提供してくれ、Jess Polkaを紹介してくれた。
訳:永田 医